パッシブシステムでは、寒い冬にはパッシブヒーティング、暑い夏には、パッシブクーリングの手法を用います。パッシブヒーティングでは、取得熱を最大にして放熱を少なくすることが肝心ですが。パッシブクーリングでは、放熱量を最大にして取得熱量を少なくします。季節によって、外部からの熱の侵入を妨げるのと、外部への熱の流出を妨げることを同時に叶えるのが、建物の断熱です。
一般的な和風住宅モデルの断熱改修とその効果をグラフにしました。外壁・屋根/床・開口部からの熱損失を示しています。また、自然換気量も熱損失として計上しました。様々な部材を組み合わせてつくる建物には「隙間」があります。隙間があれば、内外温度差、外部風速などの影響で建物は自然に換気されます。自然換気回数が1.5回というのは、あまり外の風の影響がないときの、相当隙間面積15(cm2/㎡)気密について何も配慮していない住宅の換気回数です。
この図で最も熱損失量の多い(一番上)の建物では、外壁に断熱材がなく、厚さ30mmのグラスウールが屋根・床だけに施工されている、開口部はシングルガラスの家です。何の配慮もされていない築30年くらいの家は、この程度の熱性能のため、冬季の暖房と、夏季の冷房に沢山のエネルギーを必要としていました。
断熱改修を設計するときには、既存の熱性能を把握して、熱損失構成比の最も大きいところから改善しています。最初の断熱強化は、外壁に50mmのグラスウール、厚さ30mmだった屋根・床の断熱強化50mmのグラスウールを施工します。外壁・屋根/床の熱損失は半分以下に縮小されて最大負荷がシングルガラスだった開口部になります。
ここで、開口部をペアガラスにすると、換気負荷が最大になります。壁の充填断熱は、柱の太さまで可能ですので。壁はグラスウール 100mm、屋根・床をグラスウール 150mm にすると、上から4番目の状態になります。ここまでくると、いよいよ換気負荷が最大になります。隙間からの換気負荷を少なくするために、気密が必要になります。
現行の省エネ基準には、建物の隙間に関する定量基準が示されていませんが、気密性能が省エネに果たす役割はとても大きいのです。ここで、東京・大阪などに求められる断熱基準を考慮します。
断熱をさらに強化する手法はありますが、開口部をペアガラスにして、そこそこ充填断熱をすれば、熱損失は「気密と換気」の問題だということがわかります。
建物の気密性能は、計測しない限りわかりません。