09/12 風の効果と風配図
第9章は風の話です。第9章の目次を紹介します。
第9章 風の効果と風配図 / 風と建物・風配図の解析 / 風の地域的な要素(局所要因)
防風林 / 建物内部の通風パターン / 風をコントロールする手順の概要
オルゲイは第9章の冒頭で、北アフリカとエジプト、パキスタンの典型的な建築形態を紹介しています。そのうちパキスタンのハイデラバードシンドにある「バッドギア」の写真は、バーナード・リドルフスキーの「建築家なしの建築 (Architecture Without Atchitect )」(鹿島出版会)でも紹介されています。
ヴァナキュラー建築を扱った Architecture Without Atchitect については別の機会に話題にします。
熱帯乾燥地域であるパキスタンで、一年中同じ方向からの風に恵まれたハイデラバードシンドでは、バッドギアと呼ばれる簡単な「風受け」がどの家にも装備されていました。通風が体感を快適にすることと、だれでも簡単につくることができそうな仕掛が地域の気候を共有する建築の形となって秩序ある集景をつくっていました。
風と建築
地球の表面に照射する太陽熱の不均一な分布は大気の質量変化を生み出す。太陽熱で温められた赤道域の上昇気流は南と北に向かって押し出され、その流れは、緯度30度で北極・南極からの冷たい気流に出会って下降する。さらにこの気流システムは、地球の自転と軸の傾きによって複雑な季節的変動を生じる。
風も太陽が地球にもたらす自然エネルギーのひとつです。オルゲイは気象データから風の風向風配を分析して、防御すべき風の方位と、快適範囲を広げるために有効に利用することができる風の方位を分析しました。Fig.9.3 は横軸に月、縦軸に24時間を4時間毎にグリッドにした表に、発生頻度の高い風の方位を示しています。この図では、冬の間北西方向からの風が卓越しています。この北風は暖房を必要とする時期では「防御すべき風」の方位です。また夏の「生気候図」の快適範囲から上にずれる範囲(通風があると快適範囲が気温の高い範囲に広がる部分)が現れる時期の卓越風についても同じように分析しています。その結果、この図では南東方向の風が、オーバーヒート時期に「利用できる風」になります。
オルゲイは、日射取得と同時に通風促進のために風を受け入れることを検討する方法を開発し、米国東海岸メリーランド州ボルチモアに計画される大きな建物に応用しました。(Fig.9.4) 。その中でオルゲイは、3種類の建物形態について、日射取得だけを考慮するのではなく、同時に風の利用も考慮した場合に、大きな建物のそれぞれの部分が環境との関係でどのような特性を持つか分析しています。ここで建物配置の優位性を数値評価する「oriented score」という方法を提示しました。
防風林
大きな空気の塊は、空気圧の違いによって既に決定されており動きを変更することはできない。しかし、居間に吹き込む風や地表面に近い風については、ある程度その速度を制御することができる。植生や樹木など障害物の摩擦抵抗によって空気の流れを変えて、体感的に有利なように利用することができる。
オルゲイは防風林の効果を実測評価しました。Fig.9.5 は防風林の風下の防風効果を測定した平面図です。Fig.9.6 は、それぞれ 16ft(4.87m) 、40ft(12.19m) 、65ft(19.81m) の高さの生垣の防風効果を断面図的にグラフにしたものです。一般に風は熱を奪い去ることが知られています。実際に防風林で護られた家とそうでない家とでは、奪われる熱の量が大きく異なります。同じモデルをふたつつくり、室温を一定に保つのに消費したエネルギーを比べたものです。このハウスメーカーのモデルは一般の家に比べて年間22.9% 省エネでしたが、防風林で護られたほうのモデルは、一般住宅に比べて30%以上の省エネを達成したというエピソードです。風をこんとろーるすることは、冬季にあっては熱損失を少なくすることに、また夏季にあっては、通風を促進して体感の快適範囲を広げるのに有効です。
オルゲイは地表近くの風をコントロールすることを検討しました。また、風除けの後ろ側で風がどのように変化するかにも着目しています。Fig.9.7 では生垣の配置によって建物に誘導することができる風の性質を分析しています。またオルゲイは配置が風の防御にどのような効果をもたらすか、煙をつかって空気の流れを可視化するたくさんの風洞実験の写真を残しています。
Fig.9.8 では、室内に導入した風を間仕切りでコントロールして「生気候図」の快適範囲を広げるのに有効な風速を得ることを摸索しています。開口部との関係で室内に導入してからも風速が変わらない「風道」ができることを示しています。
パソコンの進化によって、今ではFreeのFEM(メッシュによる有限要素法)解析ソフトや、CFD(Computational Fluid Dynamics) 数値流体力学解析ソフトがいろいろありますが、風洞実験による分析方法は感覚的にも視覚的にもとても分かりやすい手法なので今でも実施されることがあります。
Fig.9.9/9.10では、風の導入口と風の出口となる開口部の大きさや位置、開口部廻りの間仕切りの影響について検討しています。Fig.9.11では、風の導入口に整流版としての庇状の構造物を配置したり、回転窓によって制御した際の効果を分析しています。最後にオルゲイがまとめた風の制御の概要を翻訳します。
風の制御における手順の概要
1.毎年の空気の動きは暖房期間やオーバーヒート期間に応じて防御すべき風と利用するこ
とができる風の二つに分けることができる。
2.持続時間および速度特性に基づいて、風の動きは配向ベクトルとしてあらわすことがで
きる。
3.風を防ぎ遠ざけることは、防風林や建物の配置によって可能である。
4.風を自然換気に利用するためには
a) 建物の向き(必ずしも風の方向に垂直ではない)
b) 低圧及び高圧ゾーンをつくるために周辺環境(樹木・塀・建物)を利用する。
c) 高圧側に入口、低圧側に出口を配置する。
d) 入口を小さく出口を大きくする。
e) 直接リビングルームに導入する。
f) 建物内部の気流を邪魔されないオープンプランとする。 などに留意する。
DESIGN WITH CLIMATE 09/12 「風の効果と風配図」 以上