11/12 太陽熱利用計画
一般に設備エンジニアが行う熱流計算は、既に設計が済んだ建物の冷暖房負荷の最大を見極めるために使われるものである。これに対し、パッシブデザインの建築的アプローチでは、あくまで建物の構造の工夫によって、極端な熱変動を避け、室内気候をほぼ快適温度範囲に近い状態を保つことができる構造をも咲きすることが求められる。
オルゲイは、アメリカの気候を代表する4つの都市における「バイオクライマティックデザインモデル」を検討する際に、一般の熱工学計算とは違う方法を選択しました。その方法を以下に説明しています。
A)一般的な年間気象条件から代表日を選ぶ。ここでは1月21日と7月21日の平均晴天日デー
タを、それぞれ暖房期間と冷房期間の代表日とした。
B)分析手法としては、まずは通常通り、外気相当温度と外皮構造による熱移動計算を行い、
そのうえで今度は逆に、その地域の気象条件に最も適した結果が出たものを選び出す。
こうした分析結果を再構成して「balanced house」(熱的に理想的な家)を検討する。
C)建築要素と原則の重要性を評価し改善するための尺度として「orthodox house」
(平凡な家)についても同様の検討を行う。このように比較することでよくも悪くも
「thermal livability」(居住環境としての温熱的許容範囲)の指標を表すことができる。
また、その偏差をパーセンテージで表すこともできる。
地域に最適な建物の検討
オルゲイは第8章「環境と建築の形」で、暖房期間に日射取得を最大にし、かつ冷房期間に負荷となる日射取得を最小にするために、気候特性の異なる4つの都市について、その地域の最適な建物の縦横比率と方位を分析しました。ここでは、壁面からの熱侵入と損失を合成した熱の「透過率曲線」を描くことで、正方形形状の平面で真南に正対する配置の「平凡な家」と、その地域の気候特性からオルゲイが提案する「理想的な家」について比較しています。
Fig.11.1 の左の二つの平面図は「orthodox house」の日射侵入と建物からの放熱(熱損失)を描いています。オルゲイは沢山の熱流計算の結果を合成してこの図をつくりました。放熱は建物の外側の黒塗部、侵入熱は建物内部の黒塗部に示されています。図の左上が冬、左下が夏の日射侵入です。これに対して右側に描かれている平面図がオルゲイが第8章で検討した理想的な平面縦横比と方位を振ったものです。同じように上図が冬、下図が夏の状態を表しています。オルゲイの分類ではニューヨークは「温暖地域」を代表しています。
季節毎に「orthodox house」と「balanced house」を比べると、冬の熱損失(建物の外側の黒塗部)は2軒ともほぼ変わらないものの、南面からの日射取得建物内部の黒塗部)は「balanced house」が突出して大きくなっていることがわかります。
夏も「orthodox house」はとくに東西面からの熱取得が大きいのに対して「balanced house」では全方向からの熱取得がほぼゼロに近く制御されていることがわかります。温暖地で大切なことは、暖房期間に日射取得を最大にして、同時に冷房期間に日射取得をできるだけ少なくすることでした。オルゲイの運積的アプローチによるバイオクライマティックデザインがこの地域での自然ネルギー利用に有利なことが視覚的にわかります。
寒冷地のケーススタディ
Fig.11.2 はミネアポリスのスタディです。ミネアポリスはオルゲイの分類では「寒冷地域」を代表しています。ニューヨークの事例と同じように冬は「orthodox house」と比べ「balanced house」の南面からの日射取得が大きく改善し、夏も「balanced house」の全方向からの熱取得がほぼゼロに制御されていることがわかります。寒冷地では壁面からの熱損失をできるだけ少なくするために表面積を少なくすることが有効であるため、寒冷地のミネアポリスでは、「平凡な家」も「理想的な家」も縦横比はほとんど変わりありません。それでも方位の違いによって熱変動が大きく異なっており、配置の影響が大きいことがわかります。夏は左下の「平凡な家」では東西面からの日射侵入が、右上の「理想的な家」の冬の南面からの日射侵入に近い状態になってしまっています。日射取得のための大きな開口部は、日没後は最大の熱のネげ道になります。冬の日射取得を思うばかりに最大効果を狙うことは、同時に夏に暑くなる家になりかねません。その意味でもオルゲイのような定量的分析的アプローチの大切さを感じます。
熱帯地域のケーススタディ
Fig.11.3 はアリゾナ州のフェニックスのスタディです。オルゲイの分類では「熱帯乾燥地域」を代表しています。熱帯地域では、パッシブクーリングが主要テーマになるため、夏モードでの検討が中心になります。ここでは夏の冷房負荷として大きい東西2面の日射をコントロールするために、平面の東南の角に外部が取り込まれる形で、全体に「L型」の平面計画が提案されています。また西側壁面への日射遮蔽のために建物の西側にカーポート屋根が提案されています。オルゲイの提案では夏の「平凡な家」の熱負荷のピークは、40.513Btuだったのに対して「理想の家」では 17.794Btu まで制御できています。
Fig.11.4 はマイアミのケーススタディです。マイアミは「熱帯蒸暑地域」を代表します。熱帯地域については、パッシブクーリングのために、日射遮蔽と通風促進が最大の武器になります。夏の東西面からの熱の侵入を最小限にするために建物の平面形状を細長くして東西の壁面積を小さくするとともにピロティ状の外部空間と外構の植栽計画によって日射を避ける工夫が見られます。熱帯地域にあっては外構による日射遮蔽の手法が不可欠です。
モデルによる効果の検証
4地域のケーススタディでは、熱帯地域のフェニックスモデルとマイアミモデルについて模型使った説明があります。とくにフェニックスモデルでは、パッシブデザイン手法の効果を定量化して評価しています。
①窓の日除け効果 (46%) ②蒸散効果 (19%) ③屋根喚起効果 (14%) ④配置方位の効果 (日射遮蔽に 43%参入)⑤外構(庭)壁への影 (7%) ⑥機械換気 (6%) ⑦礎石造壁の蓄冷効果 (8%)
このようにパッシブデザインは一つの手法だけでなく、微力ながらも効果的なアイテムを複合的に駆使することで総合的な効果を生み出します。しかし、前述のように、常に変化する気候条件の中で、どのようなモードにも対応できる手法はありません。パッシブデザインには「昼と夜」「夏と冬」「日射取得と日射遮蔽」などのモード転換が必要であり、個のモードが合わないと全く玉の効果を表します。
DESIGN WITH CLIMATE 11/12 「太陽熱利用計画」 以上