07/12 太陽光の調整
パッシブデザインでは、建物外皮、開口部のデザインによって太陽熱利用をコントロールします。第7章では「太陽光の調整」について触れています。第7章の見出しを紹介します。
第7章.太陽光の調整
構造 / 移動する伝導と(放射)熱 / 日射遮蔽装置の設計 / 遮光装置の経済性 / 木と植生による日射遮蔽効果 / 閉じた環境(敷地周辺の障害物)/ 手法の概要
一般に1日の平均気温が15℃を下回ると暖房が必要と言われています。日本の気候を見ると、九州地方も含めて1年の半分以上の期間が暖房を必要とする期間になります。ただし、1年は冬だけではありません。冬を中心に日射取得だけを考慮してデザインすると、逆に夏には日射取得が大きな負荷となり、普通冷房を必要としない地域であっても冷房がなければ過ごせなくなるような室内気候をつくることになります。
欧州のパッシブシステムをトレースするかたちで移入された北欧型のパッシブシステムが、ジャカルタ並みの蒸暑に襲われる日本で、夏にどのような性能を発揮しているかについては心配なところです。季節によって利用すべき自然エネルギーは変化します。冬のダイレクトゲインに活躍する南面の大きな開口部も、太陽が沈む夜間には最大の熱の逃げ道になります。また、無防備なまま夏を迎えると、ダイレクトゲインは直接的に冷房負荷となります。
そのため、パッシブシステムでは、住まい手が季節に応じて建物の外皮性能を変化させる「モード転換」が不可欠です。開口部のモード転換には、「昼と夜」という1日単位のものと「夏と冬」という1年を単位としたモード転換まで、さまざまな工夫が求められます。
開口部における日射取得と日射遮蔽のモード転換は、パッシブデザインの面白いところのひとつです。オルゲイは沢山の実例を示しながらその性能を数値評価しています。第7章は次の文章ではじまります。
太陽放射が建物に与える影響をいかに制御するかという昔からある課題が、最近の現代的な建築計画や建築手法の進化によって再び大きな問題として注目を集めている。日射と断熱を同時に制御してきた伝統的な重量のある壁は、今では構造を保持する耐力壁(スケルトン)と、様々な材料によるカーテンウォール(皮)という構成に変わりつつあるからだ。
オルゲイは4種類の構造ビルのファサードを写真で紹介しながらその性能について解説しています。そして、カーテンウォールのガラスの種類を変えてその効果を検証しています。すべての壁が透明ガラスのカーテンウォールで覆われた場合、日射に対する防御率はとても小さく12%くらいになります。これを不透明ガラスにすることについてオルゲイは「内部は十分な光に満たされるであろう」と評価する一方で「窓の外の緑が見えない人工的な空調環境に包まれるため、内部に居る人間いとって心理学的な欠点をもたらすであろう」と否定的な分析をしています。
「熱線吸収ガラス」は、明るい色の熱線反射ガラスの場合、透明ガラスに比べて40%以上の放射エネルギーを遮断できます。このことは夏の冷房効果を高めますが、同時に冬に利用可能な日射を失うことになることも指摘しています。そこで検討の対象は、ガラスから日射遮蔽装置へと移ります。ガラス窓の外にある遮蔽装置は、計画地の緯度・経度・方位にあわせて効果的に設計することで、夏季の日射遮蔽と冬季の日射取得を両立するアイテムです。オルゲイはこの日射遮蔽装置が、地域の気候特性によっていかに多様性を持つか詳しく紹介しています。
人と外環境の間に置かれる日射遮蔽装置は、建物の表情をとても豊かに演出する。これらは非常に広い多様性を持っており、その多様性は偶発的なものではない。そのパターンは明確な用途をデザインした結果の産物である。それぞれ動機は違っていても、どの日射遮蔽装置も敷地条件や建物方位に応じて太陽の熱や光を制御するという共通の課題があり、そこに自ずと地域的パターンが生まれる。
Fig.7.1 は、オルゲイが、開口部の日射遮蔽処理の違いによる「日射侵入率」について解説したものです。一番左から日射遮蔽の全くない「普通ガラス・シングル」の日射侵入率1.0(100%) に始まり、次に「室内側に暗褐色のロールカーテンを半分下げた状態」 (0.91) 「室内側に暗褐色のロールカーテンをすべて下げた状態」 (0.81) 「室内側に中間色のロールカーテンを半分下げた状態」 (0.81) 「室内側に暗褐色の横型ブラインドをすべて下げた状態」 (0.75) 「室内側に中間色の横型ブラインドをすべて下げた状態」 (0.65) 「1/4インチ熱線吸収ガラス」「1/4インチ灰色の板」(0.66) 「ダークグレイの布のカーテンを室内に下げた場合」(0.58) 「窓の外の樹木が木漏れ日を落としている状態」(0.60~0.50) と続き、表の左から右に向かって日射吸収率が小さくなっています。表の右側には「キャンバスの暗褐色~中間色のオーニングを付けた場合」「開口部上部に庇を付けた場合」がともに (0.25) 「窓の外に葉の密集した樹木が強い影を落としている場合」(0.25~0.20) 「窓の外側に白色の横型ブラインドを付けた場合」が (0.15) 「可動式の水平ルーバー」が (0.15~0.10) と、窓外の遮蔽装置が日射を吸収して加熱する影響も加味してわかりやすくまとめられています。
樹木と植生の日射遮蔽効果
屋敷を植栽で囲うことで、四季折々の自然変化を身近に感じて楽しむことができますが、屋敷の周辺に樹木が密集していれば、騒音を和らげる効果もあります。また、生い茂った葉が空気中のほこりを除去したり、視線を遮ってプライバシーを保護するなど植栽の効果は沢山ありますが、最も優れた特性は温熱特性だといえます。冬には常緑樹は防風林として熱損失を少なくし、雪を遠ざけます。また、夏には緑陰が日射を遮り、葉の蒸散作用で緑陰に涼しさをもたらします。樹木は自然の自動運転熱制御装置といえます。
Fig.7.2 は、気候の特徴的な米国の3都市の年間の気温の推移と、その3つの地域毎に異なる在来種の植生が影を落とす時間帯を、横軸に月日、縦軸を24時間とした「24×365マトリックス」上に示したものです。DESIGN WITH CLIMATEでは、ヴィクトル・オルゲイの双子弟のアラダル・オルゲイとの共著です。アラダルは、実験研究の側面からヴィクトル・オルゲイをサポートしました。第7章に模型を使った植栽の日射遮蔽効果のスタディが紹介されています。オルゲイは、Fig.7.3 に示したプランの模型で庭の植栽の時間毎の日射遮蔽効果を確認しています。
周囲の障害
オルゲイは、太陽光を遮る「周囲の障害」と、天球を説明するために、Fig.7.6 のような「Globescope」を使って天球内の障害について説明しています。Fig.7.5 はロックフェラーセンターの天球写真です。周りをビルに囲まれたロックフェラーセンターの広場に直射光が降り注ぐのは、Fig.7.5 の写真に写された「空」に太陽があるときだけです。このような天球図を描くことで、シェ―ディングデバイスが意図した季節に、太陽の影をつくることができるかどうかシミュレーションすることができます。
日射遮蔽の概要
オルゲイは、庇やブラインドなどを用いて建物の外皮をデザインすることを「建物を覆う」と表現し、ステップ1からステップ4に分けて段階的にその手法を説明しています。
STEP1:日射遮蔽の必要な時間帯を把握するために一年を通して気温の変化を知る。
オルゲイは年間12か月について毎時、または2時間毎の平均気温推移を示すデータをそろえ、それらを用いて「時間」を縦軸に、1月から12月までの「日」を横軸にした「24×365マトリックス」上に、快適ゾーンを超える「過熱期間」を定義しました (Fig.7.7) 。グラフにすると「過熱期間」を示す面積は緯度が低くなるほど大きくなっていることがわかります。
STEP2:日射遮蔽が必要とされる時の「太陽パス図」を作成する。
太陽の位置は通常、高度角と方位角で示されます。「太陽パス図」は、曲線に示された日付で年間に天球上に太陽の動く範囲を表しています。このチャートに「過熱期間」を重ね合わせて、日射遮蔽を評価するための基準情報とします (Fig.7.8)。
STEP3:「過熱期間」の遮光装置の種類と位置を決定する。
日射遮蔽装置(シェイディングデバイス)は3つの主要なカテゴリーで示すことができます (Fig.7.9)。
①水平オーバーハング:典型的なシェ―ディングマスク(影)の特徴は弓型。
②縦型ルーバー:典型的なシェ―ディングマスク(影)は放射状。
③エッグクレート(縦横ルーバー):シェ―ディングマスク(影)は上記二つの複合型。
庇がつくる影の特性は、装置のスケールとは無関係で、適切寸法は庇の深さが決定要因になります。つくられる影は、角度に依存し、角度が同じであれば、非常に小さな「クールシェード」や「外付けブラインド」のようなものでもバルコニー付きのマンションと同じ遮光性能を持ちます。
STEP4:さまざまな日射遮蔽装置を評価する。
「過熱期間」と「太陽パス図」を用いることで、さまざまな形状の庇を評価することができ、適切な日射遮蔽装置をつくりだすことができます。さまざまな日射遮蔽装置が同じ影をつくるので、それぞれの状況に応じて日射遮蔽以外の要素を含めた多くの技術的解決策を見出すことができます。それらを選択することは設計者の仕事です。ここにデータの分析に基づいた創造的なデザインがはじまります。
DESIGN WITH CLIMATE 07/12 「日射の調整」 以上