08/12 環境と建物のかたち
種は、環境と調和し、内部と外部の力に適合している状態が形に現れます。第8章は、マンボウの話から始まります。
自然界で生じるあらゆる力が、物体の形状に直接影響を及ぼしていることは周知の事実だ。これまでの自然史の普遍的法則として、現代まで生き延びた種は、必ず周囲の環境と調和して、自らの細胞組織とからだの内外両側から働く力とのバランスをとることを図り、適応しているのである。
Fig.8.1 の上図には、バラフグの姿が示されています。しかしこの直交座標図を、同心円上の近似双曲線上に水平座標を変形させてみると、変形の結果、さきほどのフグはマンボウにその姿を変えます。この新しいネットワークでは、それらの変形が密接に関係して、選択した習慣が影響していることがあきらかになるのです。
オルゲイは、自然界の秩序の中から環境に適応した建物の形を探ろうとしました。オルゲイは環境要素の異なる「地域建築」の個性を説明するために、気温と日射量という二つの大きな要素から調査を始めました。
異なる環境での葉の形成
魚の例に続いてオルゲイは、Fig.8.2 で植物を形態学的に分析しました。オルゲイは次のように説明しています。
寒冷地では、松葉の針をよく見るとやや扁平な円筒形をしている。これは、寒さ、干ばつ、風、その他の不利な条件に耐えるための構造形式で、形はコンパクトである。温暖な地域では、葉の表面が薄く透き通り、光の大部分が葉を通り抜けて内部に入ってくる。成長に良好な環境に恵まれ、かなり大きな葉を広げることができる。熱帯地域では植物にあまり適さない環境が、形状に深刻な歪みを与える。葉の表面と枝を減らし(実際には葉のような部分は緑色の茎)、薄い細胞の塊で壁をつくって自らを環境に適応させている。形態は自らを守るため大型になる。熱帯蒸暑地域では湿気と暖かさに恵まれ、木陰に護られた環境で、植物は非常に自由な形状をとり、成長も旺盛で葉の表面積は、温暖地域のほぼ2.5倍に達する。
外部温熱力の建築への影響
地域気候に応じた最適な建物の形態を調べるためには、植物の形態に影響を与えている要素を、人間の環境においても考慮することができる。
オルゲイは、気温や日射量などの基本的な温熱環境の影響が植物の形態にも影響を与えていることに着目して、建物の形態を決定すべき一因として「冬の日射取得」と「夏の日射遮蔽」が大きな判断材料となると考えました。
そこで、第3章の、アメリカの典型的な4気候区(寒冷・温暖・熱帯乾燥・熱帯蒸暑)について、最も寒い日 (1月21日)と最も暑い日(7月21日)をそれぞれ夏と冬の代表日として、建物形状の違いによる東西南北4面に当たる日射量を分析したのが Fig.8.3 、これをもとに気候に応じた建物の「最適形状」を分s刑したのが Fig.8.4 になります。
この建物は、外皮U値0.13。開口率は南面40%、他の3面(東西北)はそれぞれ20%となっています。この図によると、建物の「東西:南北」の比率を表す「最適形状」と、一般的な許容範囲の比率を表す「弾性限界」は、それぞれ以下のようになります。
・寒冷地=最適 1:1.1 弾性限界=1:1.3
・温暖地=最適 1:1.6 弾性限界=1:2.4
・乾燥地=最適 1:1.3 弾性限界=1:1.6
・熱帯地=最適 1:1.7 弾性限界=1:3.0
オルゲイは4地域に最適な建物形状について次のように説明しています。
寒冷地では冬の太陽熱取得のために建物を東西方向に長くしても、外気温の低さでその努力は無駄になってします。寒冷地では建物の熱損失が少なくなるよう、表面積の少ない正方形にすること、大型の住宅では総2階建てにして立方体形状にすることが好ましい。温暖地の建物形状は比較的自由だが細長い形状が好ましい。特に東西方向に長い形状にすることが好ましい。灼熱乾燥地域でも、当時の日射取得のために細長い形状が好ましいようい思えるが、夏季の強いストレスを考慮すると細長い形状は好ましくない。しかし、建物の一部を立体的に切り取って「日陰の穴」を内包することによって、冷却した空気(蒸発冷却、芝生、樹木、プール、噴水効果)で建物内部の微気候を良い環境にすることができる。南部の蒸暑地域では、朝夕に建物の東西の端部が日射の攻撃を受けるが、温度が過度に上昇することはない。細長い形状の建物は風の影響(蒸発潜熱により熱を奪う)を有益に利用することができる。蒸暑地域では、日陰に守られている限り建物は自由な形状にすることができる。
ここでオルゲイが注目したのは、定量的に導き出された最適形状に、1:1の立方体形状がひとつもないという事実でした。これまで最も熱損失が少なく、夏の日射侵入が少ないのは正確な立方体の建物だと思われていました。たしかに建築面積あたり最大容積と最小の表面積にできるため、立方体の家は温熱的に有利です。ところが実は、そうした原則が有効なのは、窓が小さく日射の影響が少ない一昔前の家であり、今回の分析で前提としたような、開口面積の大きい現代の家では、この原則はまったく誤りであることが解ったのです。冬の日射を最大限に取り入れながら、夏の日射を最小限に抑えるための、建物の東西:南北比率を導き出したオルゲイは、4つの地域による「最適形状」の分析から導いた結論を以下のように表現しました。
1.正方形の家は、どの地域でも最適な建物形状ではない。
2.南北軸に細長い形状は、正方形の家よりさらに、冬と夏の両方で効率が悪い。
3.すべてのケースで最適庵ラインは、東西方向に沿って細長い。
大規模建物・街区の地域的最適形状
続けてオルゲイは、集合住宅や街区計画にも。外部温熱力との関係による分析的アプローチを試みます。Fig.8.5 は、バイオクライマティックデザインの視点から、集合住宅としての地域建築の形態が解りやすく現れている事例を紹介しています。また Fig.8.6 では街区計画の配置に、形状の地域的特性を見ることができる事例を紹介しています。
もちろん大規模建築物や街区のように、容積が大きくなるほど気候以外の要素によって形態が決まりやすいことも事実です。とはいえ、そこにも住居と同じように、各気候に最適な東西:南北比率が適用されていることがわかっています。オルゲイはこの章を以下のような結論でまとめました。
人間の居住形態は、その環境と統合された相関関係を持っている。その最終形態は、一見単純に見えても、それ自体が複合体であり、その外観は、無数の様々な条件を整理統合した姿として現れる。こうした特性は、樹木の構造から細胞分子などの微細な生物までを支配している。環境に最適な建物形状については、現代の数学的・生理学的な分析アプローチでも、長年の経験が積み重なって生まれた伝統によっても、答えは同じになる。自然が穏やかな環境では、建物は環境と応答して調和しようとし、好ましくない環境では、建物を閉じて室内環境の均衡を維持しようとするのである。
DESIGN WITH CLIMATE 08/12 「環境と建物のかたち」 以上