DESIGN WITH CLIMATE 02/12

PLEA Design

02/12 気候からのアプローチ

「パッシブシステム」は日射・気温・通風・地熱といった自然環境が持つエネルギーをできる限り利用し、住宅に取り込もうとする設計手法です。

パッシブ的な建築手法については、ガイドラインの示された「自立循環型住宅」のマニュアルにも、沢山のラベリング項目が取り上げられています。しかし、著作の副題にも[ BIOCLIMATIC  APPROACH  TO ARCHITECTURAL  REGIONALISM ]「建築的地域主義への生物気候学アプローチ」とあるように、パッシブの手法は地域の気候要素の分析を抜きには語れない「分析的アプローチ」を必要とするものです。

その分析的アプローチのひとつに、「身体感覚の快適範囲」があります。どのような生気候要素が寒さや暑さを感じさせているのか知ることから建築的な解決手法への道が開けます。

第2章でオルゲイはバイオクライマチィックアプローチ(生気候的アプローチ)について述べています。人間のさまざまな身体感覚(物理的、心理学的反応)を引き起こす、外からの多様な刺激の中から、気候的要素を分析して 身体感覚の「快適範囲」を示しました。オルゲイは身体感覚の「快適」に作用する複雑な要素を分析しています。第二章に有名な「オルゲイの生気候図」が示されています。第二章の目次をご紹介します。

PART 1 CLIMATE APPROACH
ⅱ THE BIOCLIMATIC APPROACH p.14
The Effect of Climate on Man / Shelter and Environment / The comfort zone/ Relation of Climatic Elements to Comfort / The Bioclimatic Chart

第1部 気候からのアプローチ
第2章 バイオクライマチィックアプローチ p.14
人体に対する気候の影響 / シェルターと環境 / 快適範囲 / 快適と気象要素の関係 /
オルゲイの生気候図

第2章は以下の文から始まります。

Man’s energy and health depend in large measure on the direct effects of his environment. It is a common experience to find that on some days the atmospheric conditions stimulate and invigorate our activities, while at other times they depress the physical and mental effort.

人のエネルギーと健康は、その環境の直接効果に大きく依存しています。それは、日常的に経験できることですが、あるとき、環境条件が私たちの活動を刺激し元気づけてくれたかと思うと、ほかの時には、それらが物理的および精神的努力を低下させることもあります。

The physical environment consists of many elements in a complex relationship.
One can try to describe the environmental constituent as; light, sounds, climate, space, and animate. They all act directly upon the human body, which can either absorb them or try to counteract their effects. Physical and psychological reactions result from this struggle for biological equilibrium.

物理的環境は複雑な関係の多くの要素からできています。一つは、光、音、気候、スペース、活動などの環境上の要素から説明することができます。それらはすべて、人体に直接作用します。物理的および心理的反応は生物学的平衡のためにそれらを吸収するか、それらの結果を打ち消そうとするかもがき反応することに起因します。オルゲイの説明する、人間を取り巻く環境について「DESIGN WITH CLIMATE」の挿絵に解説をつけました。

獲得:得られるもの(ゲイン)
1. 次のものによって生産された熱
a) 基礎のプロセス b)アクティビティ c)消化など d) 筋肉、寒さに応じて緊張することおよび震え2. 放射エネルギーの吸収
a) 直射日光、散乱光 b) 強い放射から c) 熱い物体から 
3. 身体への熱伝導
a) 表面温度以上の空気から b) より熱いオブジェクトとの接触によって
4 大気の湿気(時々)の凝縮損失

奪われるもの(ロス)
5 外部への放射
a) 天空放射 b) より冷たい周辺の放射
6 身体から伝導によって奪われるもの
a) 表面温度の低いものへの(対流によって促進された)放射 b) より冷たい物体との接触によって
7 蒸発:
a) 呼吸器官から b) 皮膚から

オルゲイは、人体に刺激を与える、主たる生気候要素として、①気温 ②放射 ③気流感 ④相対湿度 の4点を示しました。また人体の反応として ①蒸発 ②伝導 ③対流 ④放射 という熱の移動に関する物理条件が示されています。

 「快適性」について、ASHRAE(アメリカ暖房冷凍空調学会)では、「環境条件への満足度を表わす知覚の状態」と定義しています。空調機の調整には空気線図上に示されるASHRAEの快適範囲が参照されることが多いと思います。 ASHRAE Standardには、快適範囲が下記のように示されています。夏期の条件には、標準着衣量が0.5cloで、温度が22.8~26.1℃、絶対湿度の上限は露点温度で 16.7℃(絶対湿度に換算すると11.8 g/kg)、下限は露点温度1.3℃(絶対湿度で 4.2 g/kg)。また冬期の条件は標準着衣量0.9 clo、温度が 20.0~23.6℃、湿度に関しては夏期と同じであり、これらに囲まれる範囲を快適域としています。

 もちろん人にとっての快適性は、オルゲイが冒頭で述べているように熱的なことだけではなく、室内環境における臭いや光、音、空気質、湿度、あるいはその時の人の気分など様々な要素によって異なってきます。また、年齢や人種の違いも無視することはできません。アメリカ人と日本人の体感は異なります。参考に空調機メーカーが示す日本人とアメリカ人とで異なる室内の快適条件を下記に引用します。室内の快適条件(風速 0.08 ~ 0.13m/s)

日本人アメリカ人
夏季ET21 ± 2℃21.5 ± 2.4℃
夏季RH40 ~ 60%30 ~ 70%
冬季ET18 ± 2℃19.5 ± 2.2℃
冬季RH45 ~ 65%30 ~ 70%
ET:有効温度(Effective…Temperature)
RH:相対湿度(Relative…Humidity)

有効温度ETは、アメリカのヤグローとホフマンによって1923年に提案された被験者を使った実験により統計的に求めた快適指標で、気温、相対湿度、気流の3つの要素の温冷熱感覚に及ぼす影響を総合して温度尺度を示したものです。現在、一般に使用されているものはネルビンらの実験を基に作られた ASHRAE の新有効温度ETとその快適温度線図です。ETは着席状態で着衣量0.6clo、静穏な気流の場合を基準として、人間の感じ方の尺度が表されています。

(渡辺要:建築計画原論。P.279, 丸善より)

ほとんど無風状態を示します。ここでは蒸発冷却は高温と戦うツールです。点線は、高温度域に快適範囲を広げるために、1ポンドあたりの空気に蒸発冷却のためにどれくらいの湿気が必要か示しています。快適範囲の低温度域では日よけの必要性を示しています。

オルゲイの生気候図は「建築計画原論」(渡辺要)にも紹介されています。 オルゲイは気温と湿度を軸にとって、快適と感ずる範囲を図示しました。人体の快適性に影響を及ぼす気候要素として、①温度 ②湿度 ③気流 ④放射をとりあげています。

図の中央に網掛けで示した部分が、風速がなく、かつ周囲から気温と同じ温度の熱放射を受けている場合の快適範囲です。湿度が20%~50%のときには気温が22℃~28℃であれば快適ですが、湿度が高くなると、気温が低くないと快適な状態は得られません。この図からは湿度が80%近くでは、気温が22℃以上だと快適範囲を外れてしまうことが読み取れます。

DESIGN WITH CLIMATE Fig.46 Schematic bioclimatic index

実際の体感は、国民性や着衣量、されにはそのときの活動状態によっても違いますが、日本人では、不快指数75で約9%の人が、77で約65%の人が不快に感じると言われています。一般に不快指数は以下の式で計算されます。
不快指数 DI (Tは乾球気温℃、Hは湿度%)

22℃80%は 不快指数70.1です。不快指数が77を超えるのは 26.5℃80% 

さらにこの図には、気温と湿度のほかに、風速や周囲からの放射も快適性に影響することが示されています。冬、風を避けた日だまりでの日向ぼっこは気持ちのいいものです。オルゲイの生気候図には人体が受ける輻射の量によって、快適範囲の下限線がより気温の低い範囲に広がることが示されています。また、MRT(周囲の物体の平均表面温度)が高い場合にも快適範囲は温度の低い領域に広がります。また、暑さの範囲では、夏に木陰でそよ風に吹かれていると快適なように、風があれば快適範囲が温度の高い範囲に広がることが示されています。風の影響は湿度が高いほど大きく、床暖房が温風暖房に比べて低い室温で快適を得られるのは、室内の表面温度が高くよい輻射環境になっていることと風が動かないことによることがわかります。

パッシブデザインでは、その土地の気象条件をうまく利用しながら、冬に室内に日射を取り入れて室内の表面温度を高く保ったり、夏には日射を遮蔽して風を室内に導くことによって、気温・湿度・風速・放射の4要素をコントロールして室内気候を快適範囲に近づけるようにしています。

DESIGN WITH CLIMATE 02/12 「気候からのアプローチ」以上

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