DESIGN WITH CLIMATE 05/12

PLEA Design

05/12 敷地選定の基準

ここから第2部(5章~10章)に入ります。第一部の気候分析を踏まえ、第2部では建築設計手法としてどう解釈するかを考えていきます。オルゲイは第5章で、自然エネルギー利用を図るための「敷地の選定基準」について、特徴的な4つのアメリカの気候区でスタディしています。第5章の目次は以下です。

5.敷地の選定
・マイクロクライメイトの要因
・地形の影響
・自然と造られた周辺環境
・敷地選定の基準

第5章はマイクロクライメイトの話から始まります。

我々は「気候」という言葉を聞くと、大きなエリア一帯に一様に分配されたある条件とみなす傾向があります。このような印象は、気象データが調査に適した「平穏な条件」で集められることや、「縮尺の大きい地図」に等温線を示してもごく少数の滑らかなラインが示されることなどが要因です。しかし、実際の地球の表面では、急激に変わる多種多様の気候が、数フィートの高さ、1マイルの距離内で隣り合わせに存在しています。

日本にはアメダス ( AMeDAS ) Automated Meteorological Aquisition System と呼ばれる無人の「地域気象観測システム」基地が、およそ20㎞メッシュで全国1300地点に設置されています。基本的な観測項目は、降水量、気温、日照時間、風向風速の4要素ですが、豪雪地域では降雪量だけを計測しているポイントもあります。

最寄りのアメダス基地の4要素観測データをもとに、推計手法によって気象分析に必要な8アイテムデータ(気温、降水量、風向風速、絶対湿度、法線面直達日射量、水平面天空日射量、水平面夜間放射量)を得ることがでいます。アメダス気象データをもとに、建築物の熱負荷・室温変動計算などのシミュレーションに使えるように整備された有償の気象データが「拡張アメダス気象データ」(日本建築学会編・販売㈱気象データシステム)です。

さらに建物のシミュレーションには、毎時の太陽高度角・方位角の情報を加えて使います。しかし、実際には、マイクロクライメイト(微気候)の影響を考慮することがとても大切です。オルゲイは地形による微気候も考慮して、敷地選定や建物配置計画にあたる必要性を示唆しています。

Fig.5.1 DESIGN WITH CLIMATE Fig.82-83
Fig.5.2 DESIGN WITH CLIMATE Fig.97

オルゲイは地形の微気候への影響について、たくさんの図を使って説明しています。小さな丘の底部が冷気を溜める「冷気プール」、谷状の傾斜面が日射を受けてそこだけに生じる「熱のベルト」など方位による日射の影響や風の影響でごく狭い範囲にだけに特別に起きる気象変化について説明しています。また、小さな丘があると、風下に無風地帯が生じることにも触れています。

気象は多くの変数が複雑に絡み合った結果生じる現象ですから、風に影響があれば降水量にも微気候的な変化がみられるはずです。オルゲイは一定方向から風が吹いていても丘の上ではその場所によって強さが変化すること、その影響を受けて丘の上では場所によって降水量が変化することを図に示しています(Fig.5.1)。

Fig.5.3 丘の上の降水量変化
Fig.5.4 水辺の風邪の動き

また、物理現象として、地形によって陸地と水面の温度の違いや、日射で温められた斜面と温まるのが遅れる裾野の温度の違いから起きる風の変化があります。「海風」「陸風」は陸地と海の比熱の差から発生します。熱容量の大きい水は、温まりにくく冷めにくい性質を持ちます。そのため日中日射によって海と陸の両方が暖められると、陸の方が相対的に暖かく、海の方が相対的に冷たくなります。日中は日差しがあるとすぐに温まる陸上の暖かい空気は密度が低く低圧となり、会場はその逆で高圧になって、高圧部から低圧部への流れが発生します。この海から陸への風を「海風」といいます。

「陸風」は、夜間、放射冷却で海も陸地も冷えますが、その比熱の差で冷却率が違い日中の逆に陸から海へ風が流れることをいいます。「山風」「谷風」も同じように「山風」は、夜間に放射冷却により冷やされた空気が山裾の冷え切っていない空気より重くなり、山腹に沿って下降する流れのことを指します。「谷風」は逆で日中の日射により山腹の空気が暖められ、山腹を登る流れを指します。このような現象は低気圧などの影響の少ない穏やかな状況で発生します。このように実際には、微気候の影響によって、気象データから読み取ることが難しい条件に晒された敷地が数多くあります。基本的な設計者の姿勢として、計画地に何度も足を運び敷地を観察することを学びますが、そのことは現場でしかわからない微気候の把握を暗示しているのだといえます。

さらにオルゲイは、4つの地域について地域ごとに好ましい敷地の位置を、共通のアイコンで示しました。アイコンは半球状の小高い丘を抽象し、中央が頂上になる丘を、北を上にして表現しています。敷地と太陽との関係(斜面の方位による違い)によって、日射取得と日射遮蔽、通風利用などのパッシブ手法を考慮した時に有意な敷地を選定しています。

Fig.5.5 寒冷地の敷地選定

寒冷地の敷地選定

寒冷地では、熱保存が主な目的となるため、寒さから守られた敷地が望ましいでしょう。「熱のベルト」の下方部分で「風陰」に位置しながらも、冬の日がよく当たる斜面は有利な位置です。南から少し東にずれた方位は、バランスのとれた熱分配が可能。したがって、寒冷地に最適な敷地は、傾斜地中腹の南南東にあると言えます。

Fig.5.6 温暖地の敷地選定

温暖地の敷地選定

温暖な地域では、立地条件は寒冷地ほど厳密ではありませんが、ここでは冬と夏の熱需要を両立できる地点を選定しなければなりません。そのため望ましい敷地は、南からいっそう東へ移動する傾向にあります。冷気の影響はそれほど重要ではないため、谷の底部も有用であり、谷上部も風除けの工夫がされていれば良好な条件になります。

Fig.5.7 乾燥熱帯地域の敷地選定

乾燥熱帯地域の敷地選定

乾燥熱帯地域では、涼しい期間の要求が中心になります。暑い期間、斜面下の冷気溜まりの涼しさを得るために、より斜面の低い位置が望ましいでしょう。またおおむね年間を通じて昼以降は日射を避ける必要もあります。したがって東南東が望ましいといえます。

Fig 5.8 蒸暑地域の敷地選定

蒸暑地域の敷地選定

蒸暑地域では、空気の流れが主要な判断材料になります。敷地の選定条件から卓越風の方位は除外しました。丘の頂上近辺などの高い気流エリア、あるいは気圧の尾根の近くの風上にさらされた高台が望ましいといえます。
 丘の東南及び西面は多くの直射光を受けるので、南・北斜面の方が好ましいのは確かです。ただ、日除けは他の手段で対処することができるので、とにかく風流動効果を最重要視するべきです。

4つのアイコンで微気候の影響を抽象的に示すことによって、敷地をマクロな地形把握から分析し、微気候の傾向を把握することで、気候区ごとに居住に有利な敷地をイメージすることができます。

DESIGN WITH CLIMATE 05/12 「敷地選定の基準」以上

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