森林資源の豊かな日本では、住宅のほとんどが木造住宅です。木造住宅にもさまざまな構法がありますが、木と紙と土でつくるのが伝統的な木造住宅でした。最大の特徴は、熱容量が小さいということです。この熱容量の小ささは、暖めやすく冷めやすいという特徴を示します。
一般的な木造住宅モデルの冬の室温変動をグラフに示しました。太陽熱暖房の仕掛にない住宅も太陽熱集熱をして応答します。日中、晴れていれば太陽熱を集熱して室温が上がります。しかし冷めやすいので、日没とともに室温は下がり、明け方近くに最も低くなります。
この建物を20℃に保つために必要な暖房量をビジュアルに示すと、図の桃色の面積を積分したものになります。温まりやすく冷めやすいですが、補助暖房の効果はすぐに表れます。しかしこれでは暖房費がたいへん…ということで順を追って断熱改修を試みます。
高断熱・高気密に改修すると、室温変動は緑から青に変化します。明け方も夜間も、改修前よりも暖かくなりました。
必要な暖房量も目に見えて少なくなり、省エネ効果が得られました。しかし、ここに落とし穴があります。実は気にしていなかった日中に、かなりオーバーヒートしています。
実は、オーバーヒートは、断熱改修の前からありました。日中20℃を超えて高くなった室温は、改修後にはもっと高くなります。このオーバーヒート分の熱は外に捨てられるだけのものです。
断熱改修の前はクーラーが必要なかったのに、断熱改修の結果、オーバーヒートを起こすため、日中にクーラーが必要になるケースがこれです。地球は暑くなっていますが、自ら住まいを暑くしている場合があります。
ここでパッシブデザインの手法を試みます。
建物に蓄熱部位を設けて、モデル全体の熱容量を大きくします。その結果は視線室温の変動に住郡い現れます。先ず、室温の変動幅が小さく(振幅が狭く)なります。次に、温まりやすかったために室温のピークが集熱のピークと一緒でしたがピークにタイムラグ(時間遅れ)が現れ、室温が最も高くなるのが夕方になりました。
もちろん、必要な補助暖房量も少なくなりました。また、オーバーヒートも少なくなり、室温の平準化が図られました。温まりやすく冷めにくくなったため、日没後の室温変動も穏やかになりました。パッシブシステムでは、住まい手が建物の運転に関与します。
住まい手の参加で、夜間のモード転換を加えると、日没とともに夜間に、成り行きで下がっていた室温の下がり勾配が変化します。日中ダイレクトゲインをする開口部は、夜間には最大の熱の放熱口になります。カーテンを閉めたり、障子を閉めたりすることで開口部からの熱の流出を少なくします。
結果として必要になる暖房量は、左図の桃色の範囲になりますが、住まい手は布団の中に居るので、必ずしも暖房をする必要はありません。寝室の理想的な室温は、15℃と言われています。高断熱・高気密と合わせて、たてもの熱容量の増大をセットにするとパッシブで快適な室温を実現できます。
蓄熱された熱は動力が無くても、輻射・対流・伝導で移動します。太陽熱は日中しか取得できません。蓄熱は太陽が沈んでから夜間にかけて効果を発揮します。