DESIGN WITH CLIMATE  Victor Olgyay 1963を読む

PLEA Design

ビクトル。オルゲイの1963年の著書、Design With Climate は、パッシブデザインの記念碑的な名著です。パッシブザインで大切なことは、全てこの本に紹介されています。出版の背景に重大な被害をもたらした当時のエネルギー危機があります。多くの研究者・エンジニア・建築家たちは建築設計と建築の再構成のために繊細な努力を重ねていましたが、それぞれが別の方法を提案していました。そのような中オルゲイは、創造的な建築デザインのアプローチと、分析的科学的アプローチを統合して建築を作り上げる「統一的なコンセプト」の構築を目指していました。

ここに紹介する、ペーパーバックの Design With Climate は、2015年の復刻版です。復刻版の発刊が準備されている頃、日本でも東日本大震災の後の建築のあり方が模索されていました。震災復興の過程で「いまこそパッシブデザイン」という機運が高まる中、新建新聞社の企画で、2014年4月から2015年3月まで12回に分けて、全3章12部で構成されるこの著作の斜め読みを連載する機会を得ました。今回そのときの特集をリライトして再録することにしました。原著は、全12章全3部で構成されています。12回に分けて掲載します。

はじめに

東日本大震災によって、私たちは見ないふりをして済ましてきた沢山の矛盾や、それまで無意識だったもの、忘れかけていたことをさまざま思い起こす機会を得ました。エネルギー問題に関しては、コンセントの向こう側が存在することと、それが決して堅固なものではなかったことを思い知らされました。3.11以降、これからのエネルギー問題と建築をどうするかという議論の中で、建築と社会システムにロバスト性やレジリエンスをもつことが求められ始めました。

ロバストとは、ある系が応力や環境の変化といった外乱の影響によって変化することを阻止する内的な仕組み、または性質のことを、またレジリアンスとは「外力による歪みを跳ね返す力」として使われ、「完全に壊れることなくしなやかに復元する力」のことをいいます。

住まいの水準向上を図りながら、省エネを進めることは高度成長期以降常に建築に求められてきたことですが、3.11以降の建築家の提案を見ると以下の3点のキーワードで整理できます。

  • 再生可能エネルギー利用
  • 設備機器の高効率化
  • Passive and Low Energy Design の導入

高密度・高品質な電気のようなハイレベルのエネルギーと自然エネルギーに代表される低密度・低品質のローレベルのエネルギーを使い分けて、ローエネルギーで可能なことはできるだけローエネルギーで対応するという意味で、今、再びパッシブシステムが評価されています。

エネルギー問題に端を発してさまざまなものが見直されるという状況は、1973年と1979年に始まった(ピークは1980年)原油の供給逼迫および価格高騰と、それによる世界の経済混乱(石油ショック)によって、安価な石油の安定供給を前提に組み立てられた様々なシステムを見直す機会となった1970年代とよく似ています。

1976年にフロリダ大学のパウエン教授によって提唱された、Passive And Low Energy Architecture (PLEA) 国際会議の発足とともに、資源の大部分を海外に依存している我が国においても、住宅規模の増大、設備機器の普及、暖冷房水準の向上などエネルギー消費の漸増傾向が続く中、住まいの水準向上を図りながら、エネルギー消費を抑えることが重要な課題となり、日射・気温・通風・地熱といった自然環境が持つエネルギーをできる限り利用し、住宅に取り込もうとするパッシブシステムが注目されるようになりました。

Victor Olgyayと「DESIGN WITH CLIMATE」

Victor Olgyay (ヴィクトル オルゲイ)が [ BIOCLIMATIC  APPROACH  TO ARCHITECTURAL  REGIONALISM ]「建築的地域主義への生物気候学アプローチ」と副題の付く [ DESIGN WITH CLIMATE ] を出版したのは1963年のことでした。

Victor Olgyay は、1910年9月1日ハンガリー生まれの双子の建築家。1970年までのプリンストン大学都市計画学部の教授の時に、バイオアーキテクチャと気候に関する調査で主導的な建築家、また研究者として建物とエネルギーに関する研究で活躍しました。弟の Aladar Olgay とは、実験と研究で共同しており、ここに紹介する「DESIGN WITH CLIMATE」は、二人の共著です。

パッシブデザインの名著とされる古典、オルゲイの「DESIGN WITH CLIMATE」をご紹介しながら、今再びこの著作に学ぶべき、ローエネルギーデザインの基本に触れたいと思います。回を重ねながら、「DESIGN WITH CLIMATE」からエピソードを拾って、日本のパッシブデザインについて話を広げていきたいと思います。蒸暑地域アジアの日本における南方型パッシブシステムについて考える機会となることを意図しています。

Victor Olgyay は、「DESIGN WITH CLIMATE」のまえがきに、一連の研究のコンセプトについて以下のように触れています。原文をそのまま転載します。

Some architects may find this book too detailed for their immediate use in design. Some scientists will rightly find their own fields of research inadequately represented. But it is my hope that, in building these different fields, this study will combine both creative and analytical approaches to develop a unifying architectural concept.

DESIGN WITH CLIMATE PREFACE AND ACKNOWLEDGMENTS Victor Olgyay 1962

この本のアイデアをすぐに使おうと思っても、説明があまりにも細かすぎてすぐには使えません。また、環境工学の研究者には、彼らの専門分野がいいかげんに扱われている…と 言われかねません。この本は、創造的な建築デザインと、分析的科学的アプローチという異なる分野を橋渡して「統一的なコンセプト」を構築することを目的に描きました。それがこれからの建築に向けた私の希望です。(武山意訳)

「DESIGN WITH CLIMATE」が出版された1970年代のエネルギー危機は、先進国への重大な被害をもたらしました。多くの研究者・エンジニア・建築家たちは建築設計と建築の再構成のために繊細な努力を重ねていましたが、それぞれが別の方法を提案していました。そのような背景があってオルゲイは、創造的な建築デザインのアプローチと、分析的科学的アプローチを統合して 建築をつくりあげる「統一的なコンセプト」構築を目指していたのです。Olgyay兄弟( VitorとAladar )の Bioclimatic  Architecture (バイオクライマティックアーキテクチャー) の提案はたいへん高い評価を得ました。

オルゲイの名著「DESIGN WITH CLIMATE」に再び戻って、パッシブデザインの原点を再確認することによって、地域特性の科学的な分析もないまま、寒冷地北欧型をトレースする形で移入されたパッシブシステムを疑い、パリより寒い冬でありながら、ジャカルタ並みに熱くなるアジアの蒸暑地域として我が国の気候風土を見直し、地域によって異なる適切なパッシブシステムを模索するヒントを得たいと思います。一部のマニアな研究者だけに知られるこの本の存在に光を当てて、私がパッシブデザインと出会ったときの「わくわく感」を共有することができたらたいへんに素敵なことだと思います。

「DESIGN WITH CLIMATE」の概要

「DESIGN WITH CLIMATE」は、多くの図版と写真で構成される魅力的な本ですが、オルゲーは、バイオクライマティックデザインについて寒冷地だけでなく以下の4つの地域の手法について分析しています。

・COOL REGION  (寒冷地)
・TEMPERATE REGION (温帯地域)
・HOT-ARID REGION  (乾燥熱帯地域)
・HOT-HUMID REGION(蒸暑地域)

Bioclimatic  Architectureを邦訳すると 「生物気候学的建築」になりますが、本稿では、そのまま バイオクライマティックアーキテクチャー あるいはBioclimatic  Architecture と扱うことにします。ここで本の全体を俯瞰します。「DESIGN WITH CLIMATE」は、3章12節で構成されています。以下章立ての内容をご紹介します。

PART 1  CLIMATIC APPROACHⅰ~ⅳ 
第一部:「気候の解釈」
オルゲー独特の気候要素分析として「Bioclimatic」の一般的な紹介です。今日も世界中で様々なパッシブデザイン建築家にツールとして使用されている、有名な「バイオ気候グラフ」の提案のあるこの冒頭は非常に重要であると言われています。

PART 2  INTERPRETATION IN ARCHITECTURAL PRINCIPLES ⅴ~ⅹ
第二部:「建築の原則による解釈」
さまざまな建築の原則に焦点を当てています。これらは場所の選定、ソーラーコントロール、風ドリフト、空気の流れのモデルと材料の熱的性能などで構成されています。

PART 3 APPLICATION   ⅹⅰ~ⅹⅱ
第三部:「アプリケーション」
・COOL REGION  (寒冷地)・TEMPERATE REGION (温帯地域)・HOT-ARID REGION  (乾燥熱帯地域)・HOT-HUMID REGION(蒸暑地域)の4地域について建築の原則の適用を中心に触れています。

DESIGN WITH CLIMATE  Victor Olgyay 1976 を読む「はじめに」以上

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